本来、4月4日に、規模縮小・時間短縮にて挙行される予定だった入学式に向けての学長式辞を掲載いたします。

 

 

令和弐年度  学 長 式 辞

 

令和2年度、東北生活文化大学ならびに東北生活文化大学短期大学部の入学式の挙行が、新型コロナウイルスによる感染拡大により、危ぶまれておりました。それゆえ、大変残念であり、皆さんには申し訳ありませんが、規模を縮小、時間を短縮した形で行うこととなりました。そのため、新入生は、短期大学部、大学とそれぞれ分かれ、時間帯をずらして、この百周年記念棟ホールにて、双方の入学式が挙行されることになりました。そして、来賓、保護者の方々にはご遠慮いただいております。

昨年5月1日に「令和」という年号を迎えましたが、「令和」を掲げる最初の入学式となります。「令和」とは、万葉集にある「時(とき)に、初春(しょしゅん)の令(れい)月(げつ)にして、気淑(きよ)く風和(かぜやはら)ぎ、梅(うめ)は鏡(きやう)前(ぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮(はい)後(ご)の香(かう)を薫(かを)らす。」という、梅花がほころび開花する歌に由来しているそうです。90年以上前に、斎藤實(まこと)(第30代内閣総理大臣、大正13年(1924)─昭和11年(1936))本三島学園設立者)子爵が三島学園に植樹されたという、紅白の梅花は、裏門の側に、齢を重ねながら、咲き誇っておりました。

本日、東北生活文化大学家政学部は、家政学科服飾文化専攻18名、家政学科健康栄養学専攻43名、美術学部美術表現学科73名、計134名。

ならびに、東北生活文化大学短期大学部は、生活文化学科食物栄養学専攻27名、生活文化学科子ども生活専攻43名、計70名の新入生を迎えました。

さらに、健康栄養学専攻3年次へ編入学生2名を迎えました。

総計206名の皆さん、入学、編入学、誠におめでとうございます。同時に、これまでの皆さんの努力に敬意を表しますとともに、皆さんを支えてこられましたご家族や関係者の皆さまにお祝い申し上げます。

世界は、すでに、グローバルな「地球社会」となっており、政治、経済、法律、生活、文化のあらゆる領域が、互いに密接につながっています。ありとあらゆるものが相互に連なる網目となり、相互に依存する状態になっております。

たとえば、中国武漢市を発症源として、日本、韓国のみならず、イタリア、スペインなどヨーロッパ諸国、アメリカへと、新型コロナウイルスによる感染拡大は、地球全体を覆う勢いであります。わたしたち一人ひとりが向き合わざるをえず、日本人の社会生活、日常生活にそのまま響いてきております。本日のこの入学式そのものも、グローバルな「地球社会」の網目から免れることはできなかったわけです。

このような昨今のグローバルな「地球社会」の進展に伴い、人間の生活と文化は一様化、均一化の方向に向かっております。その結果、国、地域ごとに培われてきた伝承的および伝統的な生活と文化がそれぞれの個性を失い、無色、透明な状態となり、個人一人ひとりの違いがなくなってくるようにも思えます。このような社会環境のもとでは、人間は知らず知らずのうちに心の奥深くにある本来の「自分自身」の姿を見失い、その結果、その氷山の一角に過ぎない、表面に見出される「自意識」に頼ることになります。そうなると、短絡的に結果を求める、たとえば偏差値至上主義や極端な拝金主義に走ってしまうのではないでしょうか。このような、いわゆる自己疎外の問題を克服するには、わたしたちはどのようにこれから生きてゆけばよいのでしょうか。

歴史を振りかえれば、明治維新後の日本は、グローバルな「地球社会」に参加を強いられ、経済、政治、法律、生活、文化のあらゆる領域において、西洋化、文明開化が叫ばれた時代でした。その明治時代に、本学、すなわち三島学園は仙台に設立されました。本学は、令和2年の本年、創立120周年を迎えますが、西暦1900年、明治33年、三島駒治による東北法律学校開校がその始まりです。ついで、3年後妻よしが校長になって東北女子職業学校が創設されました。

西暦1900年というと、フランスでは、パリ万国博覧会が開催され、日本人の生活と文化が美術品を通して大々的に紹介されております。それ以前から、日本趣味(ジャポニスム Japonisme)は流行しており、その影響を受け、ヨーロッパでは生活と美術が融合した美術工芸運動(フランスでの「アール・ヌーボー Art nouveau」、イギリスでの「アーツ・アンド・クラフツ Arts and Crafts」、ドイツでの「ユーゲント・シュティール Jugendstil」など)が盛り上がりを見せておりました。

東北女子職業学校は、創立当初から、女子の社会における自律の確立と地位の向上を願い、いわゆる「手に職を付ける」という実学教育を一貫して実践してきました。さらに、ヨーロッパにおける生活と美を融合させるという美術工芸運動にも共感を示してきました。生活と文化を形作る「衣・食・住」そのものを教育研究の対象としてきたのはいうまでもありません。

現在、東北生活文化大学家政学部では、これまで培ってきた家政学教育の伝統を生かし、現代に生きる新しい生活文化を生み出そうとしております。そのために、人文科学、自然科学の基づく理論面のバックアップ体制と、現代社会の多様化、複層化に対応しようと、カリキュラム編成に努力しております。

「服飾文化専攻」では、現代のアパレル・ファッション業界を視野に入れた、高度な知識と技能を生かした服飾文化の専門家の養成を目指しております。

「健康栄養学専攻」では、医療と福祉を視野に入れた健康・栄養・食事の専門家の養成を目指しております

さらに、昨年度から「家政学部生活美術学科」は改組され、「美術学部美術表現学科」が新たに発足しました。仙台には、東北地方の中心都市であるにもかかわらず、これまで美術分野全般にわたって専門的に教育研究にたずさわる大学、学部がなかったのです。仙台市は、文化・芸術などの創造活動を活性化するために、「クリエイティブ産業」の振興、誘致に努めており、地域創生に貢献できる人材の育成を望んでおります。

「美術学部美術表現学科」は、幅広い教養と、美術の高度な専門的知識と技能を身につけ、実学として地域創生に貢献できる人間性豊かな人材を養成することを目指しております。

そのため、家庭、美術、工芸、栄養の教員免許、学芸員、衣料管理士、社会福祉主事、栄養士、管理栄養士国家試験受験資格、登録販売者、食品管理者、食品衛生監視員などの資格が取得できます。

東北生活文化大学短期大学部生活文化学科「食物栄養学専攻」では、食生活を科学的に把握し、幼児から高齢者の健康と安全に配慮する栄養士の養成を目指しております。

「子ども生活専攻」では、現代の保育環境の仕組みと実態を把握し、子どもの食育と栄養、保健と発達臨床心理学を学び、「造形」「音楽」「体育」のスキルを学び、保育士、幼稚園教諭の養成を目指しております。

その他、フードコーディネーター、情報処理士、社会福祉主事などの資格が取得できます。

本日列席しています新入生の皆さんの大多数が、「手に職を付ける」というさまざまな技術と資格を武器に、宮城、東北の地域に貢献しうる人材として育ってほしいと願っております。

このグローバルな「地球社会」で働き、自分自身を見失わず、主体的に生きるようになるには、本学での学生生活をどのように過ごしたらよろしいのでしょう。それには、本学の校訓「励(はげ)み、謹(つつ)しみ、慈(いつく)しみ」がとても大切であると、わたくしは感じています。

「励(はげ)み」とは、一生懸命に、みずからの専門領域日々努力することです。無我夢中になると、感覚は研ぎ澄まされ、自分自身の深層に宿る本来の「自分自身」の姿が、結果として立ち現れてくるのではないでしょうか。

「謹(つつし)み」とは、他人に対する敬意を失わないことです。そうすると、周りの声によって生かされている自分が感じられるようになるのではないでしょうか。

「慈(いつく)しみ」とは、自分本位の愛というよりも、親が子に与える無償の愛といえることです。ありとあらゆるものに慈愛を感じ、ひと茎の芽生にも、春を感じる祈りの感情ではないでしょうか。

この本学の校訓「励(はげ)み、謹(つつ)しみ、慈(いつく)しみ」を胸に刻み、心の奥深くに宿る本来の「自分自身」の姿をみずからが自覚しえるようになると、個人としての主体性が発揮でき、今後四年間あるいは二年間持続してこつこつと、各学科専攻に応じた、そして学生一人ひとりに課せられた「感覚する力と創造する力との絆」をしっかりと鍛えることができるのではないでしょうか。そして、卒業後の人生百年時代を展望して、働くことの楽しみや自由を享受できる基盤が形成されるのではないでしょうか。

いずれの学科専攻においても、皆さん一人ひとりの人間としての「感覚する力を鍛えること」がまず重要だと思われます。例えば、視覚において、物を見ているだけでは、物を見る見方は鍛えられません。手でそのものを触ることもいいでしょう。そのものを運んだり、叩いて音を聞くことも、味わったり、匂いを嗅いでみるのもいいでしょう。五感で感じ、全身で感じることです。

例えば、一枚の紙に鉛筆で、見える対象物を描こうとしてみてください。なかなか思うようには線が引けません。何回も繰り返し線を引いたり、消したりしているうちに、つまり「見ること」と「描くこと」の往復運動を繰り返しているうちに、自然と「美しい形」が紙に現れてくるのです。それは物を見ている現実の自分自身の姿が線によってひとりでに現れるのですから、喜びが心の中に溢れてきます。その結果、個人みずからの創造する力を自己発見できるのです。このような感覚する力と創造する力の絆が重要になってきます。

このような、「見ること」と「描くこと」との往還によって、本来の真の「自分自身」の探求を一人ひとりが実践すれば、それが束となって、皆さんの多様性に満ちたエネルギーの総体が生み出されてくるのではないでしょうか。それが、新たな地方創生の原動力にもなるでしょう。たとえ、グローバル化した「地球社会」へと組み込まれるとしても、新たに、そこで営まれる生活と文化は、高次の多様化した地球まるごとの融合へと向かって進展してゆくのではないかと期待しております。21世紀は、グローバル化した「地球社会」の理想的な形を実現すべく、新入生の皆さんをはじめ若人の活躍する世紀であると確信しております。

教職員一同、新入生の皆さんのご入学を心からお祝いし、本来の真の「自己自身」の探求に励み、グローバル化した「地球社会」の一員として成長なさることを祈念し、式辞といたします。

 

令和2年4月4日

東北生活文化大学・東北生活文化大学短期大学部 学長 佐藤一郎

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生文大通信

先輩が入学を決めた理由

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