式 辞

令和元年度東北生活文化大学ならびに東北生活文化大学短期大学部の卒業証書・学位授与式の挙行が、新型コロナウイルスによる感染拡大により、危ぶまれておりました。それゆえ、大変残念でありますが、規模を縮小、時間を短縮した形、すなわち在学生、来賓、保護者の方々にはご遠慮いただくことになりました。本日、東北生活文化大学短期大学部卒業生は、百周年記念棟ホールで、東北生活文化大学卒業生は、六号館大講義室にて、それぞれ分かれ、時間帯をずらして、双方の卒業式が挙行されることになりました。

栄えある今日を迎えた卒業生は、

東北生活文化大学 家政学部家政学科服飾文化専攻 4名、同健康栄養学専攻 39名、生活美術学科 21名、の計64名、そして

東北生活文化大学短期大学部 生活文化学科食物栄養学専攻 26名、同子ども生活専攻 55名、の計81名 合計 145名であります。

東北生活文化大学ならびに東北生活文化大学短期大学部を代表いたしまして卒業生の皆さんにお祝いを申し上げますと共に、一日千秋の思い出で今日を待っておられた保護者の方々に対しても衷心よりお祝い申し上げます。

世界は、すでに、グローバルな「地球社会」となっており、経済、政治、法律、生活、文化のあらゆる領域のものが、互いに密接に結び合わされております。ありとあらゆるものが相互連関する網目となって、相互依存性をいやがおうでも認めざるをえません。そして、わたしたちの考えと感情を決定的に支配し始めているといえるでしょう。
たとえば、中国武漢市を発症源として、日本、韓国のみならず、アメリカ、ヨーロッパ諸国へと、新型コロナウイルスによる感染拡大は、地球全体を覆う勢いであります。わたしたち一人ひとりが向き合わざるをえない状況になっており、日本人の社会生活、日常生活にそのまま響いてきております。本日のこの卒業式そのものも、グローバルな「地球社会」の網目から免れることはできなかったわけです。

このような昨今のグローバル化した「地球社会」の進展に伴い、人間の生活と文化は一様化、均一化の方向に向かっていくのかもしれません。その結果、国、地域ごとに培われてきた伝承的および伝統的な生活と文化がそれぞれの個性を失い、無色、透明な状態となり、個人一人ひとりの違いがなくなってくるように思えます。このような社会環境のもとでは、人間は知らず知らずのうちに心の奥深くにある本来の「自分自身」の姿を見ようとせず、その結果、「自分自身」の、氷山の一角に過ぎない、表面に見出される「自意識」に頼ることになります。そうなると、短絡的に結果を求める、たとえば偏差値至上主義や極端な拝金主義も生まれるのではないでしょうか。このような、いわゆる自己疎外の問題を克服するには、わたしたちはどのようにこれから生きてゆけばよいのでしょうか。

歴史を振り返ってみれば、明治維新後の日本は、グローバル化する「地球社会」に組み込まれ、経済、政治、法律、生活、文化のあらゆる領域において、西洋化、文明開化が叫ばれた時代でした。その明治時代に、本学、すなわち三島学園は仙台に設立されています。令和2年の本年、創立120周年を迎えますが、西暦1900年、明治33年、三島駒治による東北法律学校開校がその始まりです。ついで、3年後妻よしが校長になって東北女子職業学校が創設されました。
西暦1900年、フランスでは、パリ万国博覧会が開催され、日本人の生活と文化が美術品を通して大々的に紹介されています。それ以前から、日本趣味(ジャポニスム  Japonisme)は流行しており、その影響を受け、ヨーロッパでは生活と美術が融合した美術工芸運動が盛り上がりを見せておりました。フランスでの「アール・ヌーボー Art nouveau」、イギリスでの「アーツ・アンド・クラフツ Arts and Crafts」、ドイツでの「ユーゲント・シュティール Jugendstil」などが挙げられます。
東北女子職業学校は、創立当初から、女子の社会における自律の確立と地位の向上を願い、いわゆる「手に職を付ける」教育を一貫して実践してきました。さらに、ヨーロッパにおける生活と美を融合させるという美術工芸運動にも共感を示してきました。戦後、短期大学、大学が新設されましたが、文化を形作る「衣・食・住」という生活文化そのものを教育研究の対象としてきたのはいうまでもありません。本学では、現在、男女共学になっており、家庭、美術、工芸、栄養の教員免許、衣料管理士、栄養士、管理栄養士国家試験受験資格、食品管理者、食品衛生監視員、学芸員、フードコーディネーター、情報処理士、社会福祉主事、保育士、幼稚園教諭などの資格が取得できます。
今日列席している卒業生の皆さんの大多数が、「手に職を付ける」というさまざまな技術と資格を武器に、宮城、東北の地域に貢献しうる人材として、ということは、現代のグローバル化した「地球社会」の一員として、4月から組み込まれていくことになります。

このグローバル化した「地球社会」で働き、自分自身を見失わず、主体的に生きるには、本学の校訓「励(はげ)み、謹(つつし)み、慈(いつくし)み」がとても大切であると、わたくしは感じています。
「励(はげ)み」とは、一生懸命一事に努力する。たとえば、絵画制作に例えますと、ひたすら対象物を前にして画用紙を広げ、「見る」「描く」を繰り返し反復すると、当初まったく気づかなかった形態が画面に現れてくる。すなわち、鉛筆の線を引くことによって、今まで見えなかった対象物の本質に気づくことがあります。無我夢中になると、感覚は研ぎ澄まされ、自分自身がなにを見ていたのかが、画面が教えてくれるのです。ひたすら「励(はげ)み」を続けると、自分自身の深層に宿る本来の「自分自身」の姿が立ち現れてくるのではないでしょうか。
「謹(つつし)み」とは、恭(うやうや)しく畏(かしこ)まり、他人に対する敬意。すなわち、みずからが一歩下がって、耳を傾けると、その後のコミュニケーションがスムースに進展するのです。周りの声なき声によって生かされている自分を感じることができるのではないでしょうか。
「慈(いつくし)み」とは、かわいがって、大事にする。自分本位の愛というよりも、損得勘定がなく、親が子に与える無償の愛といえるものではないでしょうか。仏や菩薩が世の中の全ての人々の苦しみを取り除いて、楽しみや自由を与えることを仏教の世界では表しているといいます。

この本学の校訓「励(はげ)み、謹(つつし)み、慈(いつくし)み」を胸に刻み、心の奥深くに宿る本来の「自分自身」の姿をみずからが自覚しえると、個人としての主体性が発揮でき、人生百年時代の楽しみや自由を享受できるのではないでしょうか。
このような日本的ともいえる本来の真の「自分自身」の探求を一人ひとりが実践すれば、その地域、すなわち東北の生活と文化に、多様性に満ちたエネルギーが生み出されてくるのではないでしょうか。そして、19世紀後半から前世紀を経て、21世紀の現在まで続く、西洋と東洋との交流は、今後、それぞれの生活と文化が地球まるごとの高次の融合へと向かって進展していくのではないかと期待しております。21世紀は、グローバル化した「地球社会」の理想的な形を実現すべく、卒業生の皆さんをはじめ若人の活躍する世紀であると確信しております。

教職員一同、卒業生の皆さんのご卒業を心からお祝いし、本来の「自己自身」の探求に励み、グローバル化した「地球社会」の一員として成長なさることを祈念し、式辞といたします。

令和2年3月15日

東北生活文化大学・東北生活文化大学短期大学部

学長 佐藤一郎

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生文大通信

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